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秋田家庭裁判所 昭和46年(家イ)316号 審判 1971年12月27日

申立人 滝川澄江(仮名) 昭四五・九・二五生

右代理人親権者母 小山ユキ(仮名)

相手方 滝川順二(仮名)

主文

相手方と申立人との間に親子関係の存在しないことを確認する。

理由

1  申立の趣旨とその実情

申立人は、主文同旨の判決を求めて秋田地方裁判所に訴(同裁判所昭和四六年(タ)第一一号)を提起したところ、同裁判所は昭和四六年九月二一日本件を当裁判所の家事調停に付した。

申立の実情は、

「(1) 相手方と申立代理人とは、昭和四二年二月八日婚姻し同居していたが、その間に子が無く、相手方の収入が少なかつたこと等から、昭和四四年二月一四日頃申立代理人は実家へ帰り、相手方と事実上別居するに至つた。

(2) その後、申立代理人は昭和四四年二月一一日頃小山治郎と内縁関係を結び同棲中懐胎して昭和四五年九月二五日申立人を分娩した。

(3) 以上のとおり、申立人は申立代理人と小山治郎との間の子であつて、相手方の子ではないのであるが、申立代理人と相手方との協議離婚の届出が昭和四五年六月一一日で、同日から三〇〇日以内に申立人が出生したため同年一〇月五日、申立人は申立代理人と相手方との嫡出子として届出がなされ、その旨戸籍に記載された。

(4) よつて、申立人と相手方との間には親子関係は存在しないことの確認を求める。」

というにある。

2  調停の経緯と調査の結果

昭和四六年一二月九日および同月二三日の調停期日に、申立代理人は出頭したが、相手方は出頭しなかつた。ところで、これに先立つた当裁判所の調査および千葉家庭裁判所への調査嘱託の結果ならびに相手方作成の答弁書によれば、申立人主張の事実および相手方は申立人主張の事実を争わず、且つ相手方を筆頭者とする戸籍から申立人を除籍することについて異存のないことが認められる。

なお、相手方が調停期日に出頭しないのは、経済的に困窮していたためであることが認められる。

以上のとおり、相手方が調停期日に出頭しないので、調停において当事者間に合意が成立せず、したがつて、家事審判法(以下、家審法と略称)二三条の審判手続をすることができない。

3  家審法二三条事件に関する同法二四条審判の適法性

家審法二三条は婚姻又は養子縁組の無効又は取消、協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消、認知、認知の無効若しくは取消、民法七七三条の規定により父を定めること、嫡出子の否認又は身分関係の存否の確定事件について、家庭裁判所が、(イ)調停において当事者間に合意が成立すること、(ロ)申立の原因について争いがないこと、(ハ)裁判所が必要な事実を調査すること、(ニ)調停委員の意見を聴くこと、(ホ)合意が正当と認められることの要件のもとに、合意に相当する審判をすることができる旨を定め、同法二四条は家庭裁判所が調停委員会の調停が成立しない場合に、(イ)当事者双方のため衡平に考慮すること、(ロ)一切の事情を観ること、(ハ)当事者双方の申立の趣旨に反しない限度であること、(ニ)調停委員の意見を聴くこと、(ホ)事件解決のため相当と認められることの要件のもとに、調停に代わる審判をすることができる旨定め、いずれの審判も、二過間以内に異議の申立があれば失効し、かかる異議がなければ確定判決と同一の効力を有するものと規定されている。

家審法二三条事件について同法二四条による審判はなしえないとする消極説の論拠は、概ね、(1)家審法二三条の立法趣旨は、当事者の任意処分不能事件について当事者間に合意のある場合に限り訴訟手続によらず簡易な手続で処理することを認めたものであり、その合意は審判をうけることに異議がない旨の手続法上の合意とみるべきであること、(2)二三条審判は、当事者間の合意の成立を要件としているのに対して、二四条審判は合意が成立しないことを前提としているので、制度として相互に相容れないものであること、(3)二三条審判の場合は事実の調査を行うべきことを厳重に命じているが、二四条審判の場合は「衡平を考慮し、一切の事情を斟酌すれば足りる」のであるから、二四条審判により二三条事件を処理するのは著しく、不合理であること、などである。しかしながら、(1)二三条の合意は、その合意のみでは実体的処分効果はなく、結局は手続的効果しかないものであつて、調停期日における合意を形式的に絶対視することは殊に隔地者間の事件処理において妥当性を欠くものというべく、当事者の主張が正義にかない真実に合致すると認定された以上、当事者に家審法二五条の異議権を与えることと二四条の要件をみたすことによつて二三条の合意の要件に代えることができると解するのが相当であり、(2)形式的には二三条審判は当事者の合意の成立を要件とし、二四条審判は合意の不成立を要件としている点で、相対立するものの如くであるが、二四条は二項において乙類審判事項を除外しているのみで、対象を任意処分可能な事項に限定していないし、二四条の立法趣旨は身分関係については正義、真実に基き裁判所が当事者間の合意を積極的に形成ないしは擬制することを認めたものと解せられるのであつて、二三条審判と二四条審判とを当事者間の合意の有無によつて区別しうる対立する制度として理解すべきものではなく、紛争解決のための制度として総合的に理解すべきであり、(3)二三条事件を二四条により審判する場合には、二四条の要件のほかに二三条の要件(前記(イ)の要件を除く)をも充足すべきである、と解することにより、消極説(3)の非難は排除されうるのである。

以上の理由により、当裁判所は、二三条事件についても二四条によつて審判することができるものと解する。

4  結論

本件については、2に判示したとおり、形式的には調停期日における当事者間の合意はないが、実質的には相手方において申立の趣旨に異存はなく、事実調査の結果によれば申立人主張の事実は真実と認められ、しかも当事者間に申立の原因事実について争いはなく、当事者双方の衡平を考慮し一切の事情を斟酌すると申立の趣旨どおりの審判をすることが事件解決のため相当かつ正当であるというべきである。

よつて、調停委員の意見を聴いた上、家審法二四条に則り、主文のとおり審判する。

(家事審判官 篠田省二)

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